シミュレーター訓練が終了した段階でボーイング767の型式証明は取得できましたが、訓練はそこでは終わりません。 今度は実際のラインフライトを通じて行われるLine-indoc訓練が待っていました。 今までシミュレーターでは万が一のトラブルに備えるための訓練が主でしたが、line-indocでは実際にお客さんを乗せて運航する通常のフライトでのオペレーションを学びます。
最初のフライトはトロントからバンクーバーまでの往復でした。 実際に200名近いお客さんを乗せて飛ぶのはシミュレーターとは少し違いました。 フライト中にPilot Monitoring(操縦していない方)としての業務なども多く学びました。 始めての着陸はかなり緊張しましたが、思ったよりもうまくいきました。 多くの機長いわく、「ボーイング767は巨大なセスナ172」なんだそうです。 たしかに、手動操縦でも操縦しやすく、安定しています。 コクピットは今まで飛ばしてきたどの飛行機よりも高いところにあるので、アプローチ中の外の見え方がかなり違います。 椅子の高さが高すぎるんじゃない?って思うくらいに座高を調整します。
2回目のペアリングでは成田空港にいきました。 アメリカ・カナダ以外の外国へのフライトは初めてで、太平洋を横断してのフライトでした。 このフライトは10時間ほどのフライトだったので、機長、僕、そしてもう一人の副操縦士の計3名体制でのフライトでした。 途中で3時間ほどの休憩を取ることができたので疲れは思ったほど酷くはありませんでした。 ただ、緊張のせいもあり、前日はあまり眠れなかったし、飛行中の休憩でもほとんど眠れませんでした。 ボーイング767にはバンクベッドがないので、ビジネスクラスの一番後ろの席をカーテンで囲い、外のお客さんから隔離された空間で休憩を取ります。 シートはフルフラットになるのでかなり快適です。 成田空港へのアプローチは日本人管制官の英語に戸惑うことが少々ありましたが、比較的スムーズに行ったと思います。 僕が長年夢見てきた、「パイロットとして日本へ飛んで帰る」ことが実現した瞬間でした。
(写真上:ロシア、北海道東部を通過して成田へアプローチ)
(写真上:ANAが成田では業務を担当してくれています)
(写真上:成田山)
東京でのレイオーバーは丸一日。 到着当日はクルーと共に成田市内のバーやラーメン屋などを周り、楽しい時間を過ごしました。 成田にはエアラインクルー御用達のお店が多くあるようです。 そこは僕の知らない日本でした。 翌日はイオンモールに行き、ちょっとだけ買い物をし、成田山へも足を伸ばしました。 東京にいる友人達にも会いたかったのですが、なにせ短いレイオーバーだったので今回は断念しました。
(写真上:成田山では桜が綺麗でした)
こうして2回目のペアリングが終了。 1日だけ休みがあり、その後、今度はロンドンへのフライトとなりました。 そして、これが最終審査のペアリングでした。
今度は大西洋を横断してイギリスまでいきました。 大西洋横断はちょっと特別で、いろいろ知って置かなければいけないルールがあります。 訓練中にちょっとだけ習いましたが、実際に体験するのはこれが初めて。 機長は監査担当ではありますが、それでもこれが僕の初めての大西洋横断ということもあり、いろいろ細かく指導してくれました。
ロンドンへのアプローチではほぼ毎回どこかでホールドさせられます。 僕達は約10分間、VORの上空を旋回させられました。 イギリス英語の訛り、独特の言い回し、そして喋る速度が極端に速いので、航空無線を理解するのが大変でした。
ロンドンの滞在ホテルは空港から1時間弱のところで、ビートルズで有名なアビーロードの近くです。 チェックイン後は3時間ほど昼寝をしました。 本当はもっと眠れましたが、そうすると時差ボケになってしまうので無理をして起きました。 そしてアビーロードやホテル周辺を散策。 その後は勉強をしました。 夕方は機長や他のクルーたちとバーやインド料理屋にいきリラックスした時間を過ごしました。
(写真上:アビーロード)
(写真上:緑豊かなハイドパーク)
オタワ空港に到着し、今度はそこからトロントまでのデッドヘッド。 そして、カルガリーまでのフライトと、24時間以上起きっぱなしでした。 しかも帰りのフライトでは隣に小さなお子さんを連れたお母さんが座っていて、このお子さんが泣きまくりでかなり大変でした(笑)。 なにはともあれ、午前2時前にカルガリーの自宅に久しぶりに戻ってきました。
こうして長かった訓練が一応終了しました。 英語では「drinking from the fire hose」とか、「fire in the helmet」という表現で訓練の大変さを表します。 覚えることが多すぎて頭がパニック状態になることがなんどもありましたし、今まで出来ていたことが突然できなくなったり、明らかに習得度合いが落ち始めたときもありました。 それでもなんとか乗り切ることができ、晴れてボーイング767の副操縦士としてチェックアウトできたことはとてもうれしく思っています。
次回はボーイング767について少し書こうかと思います。
(つづく)